もてまん
繁さんはね、その船がフランス国籍だったからその船に乗り込んだのさ。
そこまでは計画通り。
でもその船は、直ぐにはフランスに戻らなかった。
ジャカルタ、ボンベイ、シドニー、そしてケープタウンとね、色んな港で積荷を積んで、フランスに戻るのに三ヶ月かそこらかかったそうだよ。
飛行機ならかかって二日だよ。
でも、その三ヶ月が魔法の三ヶ月だったって、そりゃ嬉しそうに話してくれた。
船員ともすっかり仲良くなった繁さんは、彼らを相手にフランス語の勉強をした。
三ヶ月たった頃には、会話はほとんど不自由ないレベルになってたそうだよ。
もともと読み書きは達者だったらしいからね。
そして、もうひとつの大きな魔法。
それがジョセフィーヌとの出会いだったのさ。
ジョセフィーヌが繁さんの恋人かって?
いいや、彼女はその船のオーナーでね、船がケープタウンに寄港した時に乗船してきたんだそうだよ。
その頃で、五十前後だったそうだから、繁さんの母上と同年代くらいかね。
彼女も最初は、密航してきた日本人って聞いて、驚いていたらしいけど。
いろいろ話すうちに、すっかり繁さんが気に入って、フランスに着いたら彼女の会社で働くよう勧めてくれたんだそうだよ。