猫マンションとねずみの塔
【二号室】雨の神様
「これで五十枚ですね」

ぼくの目の前に原稿用紙が五十枚、積み上げられた。雑貨屋の店主は鼻先に引っ掛けられた眼鏡を指を押し上げ、計算機で値段を計算している。

ぼくは顔をしかめた。

それがあまりに露骨だったせいで、店内にいた数人の子に不思議な顔をされてしまった。ぼくは真っ赤になりながら、急いで下を向いた。

だって、こんなに沢山の原稿用紙の束なんて見たことないんだもの。しかも、これ全部にこれからぼくが文字を埋めなきゃいけないなんて、……地獄だ。顔だって自然と歪むさ。

ぼくは心の中で顔をしかめた言い訳を呟きながら、まわりを見た。さっき、不思議そうな顔で自分を見た子たちは、楽しそうに友達と話していた。
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