猫マンションとねずみの塔
 その子たちは話すのをやめてもなお、僕が店から離れない様子を見て不安そうに、お面の奥からお互い視線を投げ掛け、目配せしているようだった。しばらく、きょろきょろしている動きをした後、やっぱり同じ鞄からカラフルな紙コップを取り出して耳に当てた。コップの底の部分には糸が繋げられていた。そのせいで、糸を通してコップに向けて発せられた言葉が相手に伝わっているようだった。

 三人は輪になり、その方法で会話をしているようだった。なるほど。それなら、僕に会話が聞かれる心配は少ないかも知れない。

 なんとも不思議な光景だった。
 それでもしばらく会話は続いたみたいだった。
 三人は時折、言葉で伝えられないことに苛立っているのか、地面にチョークで叩き付けるかのように何か書いて居た。

 突然、酒屋の扉が開いた。主人が煙草を片手に出て来たのだ。僕は思わず振り返った。
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