猫マンションとねずみの塔
「おかしいな。さっきまでここに居たのに」

 僕はきょろきょろ辺りを見回しながら呟いた。いくら何度碧い眼をぐるぐる回転させてみても結果は同じだった。そんな僕は余程おかしく見えたのだろうか。そんな様子を斜向かいに住む美容師に不思議そうに見られてしまった。

 僕は下を向いて舌打ちした。

 あの美容師は先生に告げ口するかも知れない、と思ったからだ。きっと口下手な彼でも、今日の晩餐の話題には事欠かないだろう。

 口下手人見知りの彼は最近、僕の担当の教師に求愛中なのだ。
 
街中の彼女の生徒を監視しては、彼女に報告している。要するに、気を引いているのだ。


 それはあまり労を功していないようだが。
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