戦場駆け征く
「あの時の!」


後ろから唐突に呼び掛けられて振り向く。人混みの中でも分かる様な長身の少年。何処かで見た顔だ、と記憶を探る。確か、あの戦場の。


「忘れたんですか、凱ですよ」
…あの少年はこんなにも長身だったろうか。いや、戦場という場所が場所だ。身長など覚えていよう筈も無い。

「…ああ、お前か。どうした、榛の兵士がこんな場所に居ても良いのか?」

少年はくるくると笑う。

「軍は辞めました、やっぱり俺らには農業が合ってるみたいで」

背負った籠には、沢山の野菜が入っている。どれも大きくて立派だった。

「あの時は有難うございました。死なずに済みました」

「…どう致しまして」

少年は笑顔のまま、漣犀の腕を掴んだ。咄嗟に何の真似だ、と怒鳴り付けようとした瞬間に、少年は―凱は、耳元で囁く。




『あんたに、取って置きの情報を教えますよ』
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