戦場駆け征く
酒場に入ると、昨夜の戦の勝利を祝した宴会が行われている最中だった。却って話の内容を聞かれずに済んで好都合かもしれない。

少年は適当な椅子に座り、漣犀はそれに向き合う形で座る。


「…まず、俺らのことから。俺らは農民で間違いありません。けど、たぶん聞いたことが有るとは思います。『孫章』」

出て来た名前に、思わず目を見開いた。孫章、というのは榛の隣国・坤の王座に君臨する男の名前だ。それがどう、凱に関係有ると言うのか。

「俺らの姓は孫、孫凱って言います。章には―俺らのお父には、俺ら含めて十人の子供がおります―…ああ、もうこうやって貴方に身分を隠す必要も無いでしょうか」


…坤の王子か。

坤は神代から続く国の一つである。昔、一つの名前の無い国だったそれは戦乱で二つに別れた。乾と坤、乾は簡単に滅び、何故か坤は今まで歴史に名を刻み続けている。

「…それで?」

漣犀が問い返すと、孫凱は笑った。
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