戦場駆け征く
「私と九人の兄弟に、父上は榛と玲の密偵をさせているのです。坤は国力の乏しい国、覇道とは程遠い場所におります。現在、玲は最も天下に近く、榛はそれに立ち向かうという状況にあります。榛と玲、どちらか天下を取る側と協力―いえ、降伏という形での全面協力をしたいと父上はおっしゃった。我らにはもう戦う余力は無い、坤の民もそう思っております。内情を知るべく、私達は農民や商人、兵士となって密偵をしております。あくまで、完全にその役に成り切っておりますので私の兄弟が玲を裏切ることは有りませんからご安心を。

…そして、父上は昨夜決断を下しました」


注がれた酒を豪快に飲み干して、少年は言った。



「玲に降伏しましょう」
漣犀は目を細めて孫凱を見た。揺るぎの無い、面長な顔。



「……それで?愚かな俺にはいまいち、それが『取って置き』には聞こえないのですが。それに、何故俺にこの話をしたんです?」
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