戦場駆け征く
「仕方ないな。…じゃあ、俺の愚痴でも聞いてくれる?昔の話なんだけど」

「ああ、飲みに行くよりはこっちの方が良い」

邑丁はそうですかそうですねぇ、とわざとらしく呟きながら短剣を手に取った。

「最初はさぁ」

邑丁は短剣の汚れをつ、と拭き取った。

「弓兵が、良かったんだ。もしくは弩兵」

短剣を自分の脇に置くと、次は鉄甲の赤い錆を落としに掛かる。

「剣が埋もれた感触とか、人が死ぬってのを現実的に感じなくて済むからだ。自分の放った矢が、敵兵の命を絶つ。それで、終わり。…それもそれで、恐いか」

ぎゅ、と擦ると、ぽろぽろと錆が落ちた。前回の戦場で水の中を突っ切ったのがいけなかったのだろう、と漣犀は思った。
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