木霊の四辻
「来るなあっ! 来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなああああ!!」

二段ベッドが軋み、カーテンが激しく揺れる。

ルームメイトの狂乱に今野佐紀が怯え、震え、縮こまり、ベッドと反対側の壁へずりずりと下がった。

ベッドの内側では燈哉のくぐもった叫びが続き、ばたばたと動いている足がテーブルを蹴飛ばし、紅茶をぶちまけ、クッキーを散らばらせた。

「っ、めんどいわね」

舌打ちをしたゆいが、動き回っている燈哉の足を鷲掴みにする。一気に引き抜いて、入れ替わるようにカーテンの中へ顔を突っ込む。

「いっ」

や、と八木麻衣子がさらに悲鳴をあげるより、早く――

「黙れ」

ゆいはスカートのポケットから、縦長い紙切れを彼女の眼前に突きつけた。

「これ、見えるわね」

カーテンで仕切られたベッドの中は、まだ日もあるのに暗く、毛布やシーツに埋もれている八木麻衣子は、悲惨なありさまだった。どれほど引き込もっているのだろう。女としていろいろ、見るに耐えぬ状態である。餓鬼……に見えてしまった。

それでも、眼前数センチのところに突きつけた紙切れは、見えているだろう。

それがどんな紙切れかはともかく。
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