木霊の四辻
「木霊の正体は、アンタね、大野。発端もアンタ。今言った手口で瀬戸岡さんを手玉にしたんでしょ。操り人形にした彼女に同じことをやらせ、木霊の四辻をさらに強力なものへ演出した。調べればすぐに割れるわ。薬を調達していたのが瀬戸岡さんか、アンタか。……ま、現状がなにより物語っているようだけど?」

「……なるほど、言い逃れはできないようだ」

観念、したとは思えない。しかし、言葉だけは自分のしたことを認めたようだ。

逃げようとするだろうか。それとも、自分を捕まえに来るだろうか。一瞬を見逃さないように、ゆいは密かに身構えた。

大野が言う。

「おもしろいと、思わないか、宮部……」

「なにが」

「ふふ……お前も、あまり私を高くは評価していなかったろう? 時には陰で私を嘲笑ってもいただろう」

大野の評価は、決して高いものではなかった。

もしも木霊の四辻や呪いで生徒を脅かす者が、私怨であるなら。犯人は鬱屈したフラストレーションを抱えている。

大野はそれに該当していた。

生徒から詰られ、無能と評されたひとりの男の、なけなしの復讐が、この偽りの怪異だった。

しかし、あまりに醜悪すぎる。人間の醜さに、ヘドが出る。
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