木霊の四辻
大野はポケットから取り出したケータイのライトをつけて、血眼になった。

「どこかにあるんだろうが、ええっ!? どこだ、どこにあるんだスピーカーは、ああっ!?」

本棚の本を引っ張り出し、積み上がった書類を蹴飛ばし、スーツが背もたれにかけられたままの椅子を倒し、自分の書斎をでたらめに引っ掻き回した大野は、やがて硬直する。

スピーカーが、見当たらない。

いや――。

「っ、ここか!」

とっさに気付いた、コンポのコンセントを抜いた。しかし、少女の悲鳴は止まらない。

―― いやあああああっ! ――
―― やめて、もう、木霊は、いやあ! ――

「なっ、なんだっ、なんだっていうんだ、いったいどこから……!」

あるとすれば宮部ゆいが先ほど放った小型スピーカーだが、それは違う。部屋の中央から声は聞こえていない。いやそれ以前に、この声はどこから聞こえているのか。

部屋中に響く少女の叫喚は、しかし、音源がない。

仮にあったとしても、幾重にも幾重にも反響する声は、いったい、どこから……。

まるで、それは、木霊のような。

「そんなバカなことがあるか……!!」

自信が作り上げた木霊の四辻には仕掛けがあった。

しかし、今聞こえているこれは――
< 84 / 94 >

この作品をシェア

pagetop