木霊の四辻
「ふん。ざまあないわね」

とふんぞり返るゆいの横に、

「人使い荒ぇの、ったく」

愚痴りながら、天井から降ってきた。

千里ヶ崎燈哉は、大野の視線がゆいの放ったスピーカーに集中した一瞬で部屋に滑り込み、天井に張りついていたのである。教師の使う部屋は、足場となる本棚や、少々の重さになら耐えられる大きめの蛍光灯もある。天井に、某ヒーローのように潜むことは不可能ではない。もっとも、二階から飛び降りても難なく着地したり、寝そべった姿勢から足の反動だけで起き上がったりできる、優れた身体能力が必要だが――千里ヶ崎燈哉ならば、それができる。CDコンポを抱えていても。

そして燈哉は、ゆいの合図とともに部屋の電気を割り、最大音量で少女らの声を流した。閉めきった暗室では、声は反響に反響を重ねて音源がわからなくなる。暗闇とゆいの奇怪な呪文、そして大音量の悲鳴が、大野の思考を焦らせ、満足な判断をさせなかった。

相手の不安を揺さぶることで怪異を偽装し、優位に立つ――大野自身が行っていたことを、ゆいもやっただけ。

そしてとどめとして、燈哉が大野の頭にコンポを投げつけたのだ。
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