仮面の娘
両親
拝啓 ホストクラブ「Soothe」御中
この度は、私共の一人娘・朝菜琴音に職を与えて下さり、ありがとうございます。
いえ、「ありがとう」との一言では足りないかもしれません。
ただ、皆様方に、感謝の言葉しか思い付かないのは確かです。
琴音の怪我の理由は、もう皆様もご存知でしょう。
琴音は、高校を卒業して以来、怪我のせいで、今までまともな職に就けたことがありませんでした。
私達はあの時、改めて「差別」という言葉の重みを、身を持って知りました。
娘も、いろいろとしたい年頃ですので、私達は、老後の為だった貯金を少しずつ切り崩して、娘への小遣いとしておりました。
時折、私達の仕事場へ連れて行き、頼んではみたのですが、ほとんど門前払いでした。
そちらがホストクラブということに少し驚きましたが、同時に、自分の中で考えが変わりました。
「ホストとは、俗世を追われ、欲という名の魔物に憑かれた者のなれの果て」というのが、私達の持論でした。
今思えば(何と残酷な思い込みをしていたのだろう)と、後悔・自責の念が心から消えません。
この場を借りて、皆様にお詫び申し上げます。
本当に申し訳ございませんでした。
琴音にも言いましたが、これから琴音は、昼夜逆転の生活に入ると思います。
もし、遅くまでかかる日があれば、皆様のお宅で休ませてやって下さい。
最後に、皆様には、本当に心から感謝しております。
どうぞ、愛娘を宜しくお願い申し上げます。
敬具 朝菜武瑠・佐由子