片腕の人形
家に入ると俺は一歩一歩、二階へあがって行った。

階段がきしむ音はいつも以上に大きいような気がした。

俺が自分の部屋を覗きこんだ。ゆっくりあたりを見渡し、そして部屋に入る。

「大丈夫だ…」

俺はそう呟き、素早く机を見た。


何もない。あの人形もいない。


「…ふぅ」

俺は大きく溜め息をついた。

そうだよ、戻ってくるはずないじゃんか。人形が動くはずない。

健志もきっと…何かの間違いだ。そうだ、きっと死んでない。ただ気絶してただけだ。

「そうだよ…俺どうかしてたんだ。冷静になればよかったんだ」

俺は頭をかいた後、少し笑顔になった。

「はぁ…頭冷やそう」

俺は自分たちの人形を確認しようと、おもむろに引き出しを開けた。

「よくよく考えれば、あの人形、もともと赤かったじゃないか…」

俺は自分に言い聞かせるように独り言をつぶやいた。

そして三澤の人形を手に取った。


そのとき、三澤の人形の変化に気付いた。

「え…」

三澤の人形は別に赤くなってるわけではないし、ボロボロにもなってない。

だが、人形の表情が何故か妙だった。

そしてようやく俺は気づいた。


三澤の人形の首が逆向きになっている。


俺はそれをみた瞬間、声にならない悲鳴を上げた。

「う…そだ…」

ただの偶然と思いたい。他の人形と重なって首が曲がっただけと考えたい。

でもその淡い期待はすぐに壊された。


引き出しの端に、あの片腕の人形が寝ころんでいた。

そしてその表情はまぎれもなく笑顔で、拾った当初とははっきりと区別がつくぐらい笑っていた。

「そんな…そんな…そんな…」

俺はすぐに携帯を取り出し、三澤に電話した。

「三澤…早く出ろ…!出てくれ…」

だが三澤はでなかった。



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