片腕の人形
「あんな…」健志が目をこすりながら話す。

「昨夜俺ら男子テントは真も英明も早く寝てさ、俺も寝ようと思ったんだけど全然眠れなかったんだよ」

「あぁ。そうみたいだな」俺は同情するようにいう。

「寝なきゃ寝なきゃて思えば思うほど眠れなくなってさ」

「それがキャンプだろ」英明も言う。

「こっからなんだ」健志の顔は青ざめていた。

そんなにひどかったのか…?

「みんな寝て俺だけ起きててさ、つまんないなぁ早く寝ないかなぁて思ってたらさ」

「…それは聞いたよ」三澤が言った。


「そしたら急に泣き声が聞こえたんだ」


「え?」また全員が言った。


「俺も最初は空耳かと思ったんだけどさ。明らかに声がするんだよ。それも…」

健志はここで言葉を切った。

「真のバッグの中から」

「……」

まったくくだらない冗談だ。

「まったく健志、いい加減にしてよ」三澤が声を出した。

「そうだ。怪談なら今日の夜にでも聞いてやる」英明もすかさず口をはさむ。

「ちがう!本当なんだ!」健志が必死にしゃべる。

「健志…朝に怪談は似合わないよなぁ」俺も皮肉をこめて微笑む。

「真面目なんだよぉ。聞いてくれ…」

健志が朝食が並んだテーブルに手をついた。

「真のバッグから泣き声がして途切れ途切れに聞こえるんだよ。『タスケテ…うらめしやぁ』って」

「……」

俺は頭をかいた。三澤はあくびをした。優衣は苦笑いをしている。

「あー…うん…つまんない」

「…怖くなかった?」

健志が青い顔で言う。

「どう思うみんな?」

英明が声をかけたとき俺は口を開いた。

「今時うらめしやーって…古っ」

「そうだね…ちょいとしつこいし、朝にって…」

三澤もうなずいた。

「ちぇ…受けると思ったのに…」

健志が残念そうに言う。

「そんなことより」

英明が今日の天候と、中止の話をした。



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