Call My Name
俺は仕事を終えると、スーツのまま、スイレンの実家の本屋に向かった

3駅、電車に乗ってから、俺は地に足をつける

見なれた地元の風景が視界に広がった

俺は安堵から、思わず笑みが広がる

すっかり季節は冬に近い秋になってる

俺は薄いコートの襟を立てると、指先に息を吹きかけた

家を出たのは、春

今は秋だ

意外と、俺も一人でやれるもんなんだな

すぐに駄目になって、家に帰ることになるかもしれないって、心のどこかで思っていた

俺に、独り立ちができるはずがないと…自信がなかった部分もあった

だけど、絶対に一人で頑張らなければならないっていう気持ちもあった

揺れる気持ちの中で、毎日を過ごし…気がつけば暑い季節を通り過ぎていた

俺はスイレンの実家に向かった

変わり映えのない風景に、俺の心がひどく安心する

スイレンの実家の本屋に足を踏み入れた

「いらっしゃいま……」

店番をしていた若い女性の声が、途中でぶつっと切れる

俺は『は?』と思いながら、顔をあげると、少し髪が伸びたスイレンがレジに立っていた

俺は自然と、顔に笑みが広がっていった

心が落ち着く

そうか…今日は金曜日か

俺は腕時計で日付を確認すると、スイレンが寮から家に戻ってきている理由を見つけた

「久しぶり」

俺は片手をあげると、スイレンの目が一気に充血して、ぽろぽろと泣きだした

え? は? どうしたんだよっ

俺はびっくりして、目を丸くした

手に持っている鞄を下に落とすと、スイレンに駆け寄った

細く小さな肩を抱きしめると、俺はスイレンの顔を自分の胸に押し当てた

「な…泣くなって」

俺の声が震える

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