Call My Name
第十章 名前を呼んで
アパートに戻ってきた俺は、バイクを駐輪場に閉まってから、自動ドアを潜ろうとした

キーケースから、部屋の鍵を出して顔をあげると、寒そうにガタガタと身体を震わせて立っているスイレンと目が合った

え? なんで?

俺は幻なのではないかと、一度視線を逸らしてから、再度アパートのエントランス前に立っている女性を見つめた

やっぱり、スイレンだ

俺はごくりと唾を飲み込むと一歩前に踏み出した

「スイレン?」

スイレンの肩がびくっと跳ねた

「た…立宮先生が、ここを教えてくれたの」

「あ、ああ」

兄貴、この前、車でここに来たから…住所は知ってる

俺は手袋を外すと、スイレンの頬に触れた

氷のように冷たい頬に、俺のほうが身震いをした

「どれくらい待ってたの? 身体がすごく冷たいよ。あがっていく?」

俺は指を上に向けて、スイレンに微笑んだ

「でも、迷惑じゃ…」

「…なわけないだろ。身体が冷たい。これじゃ、風邪をひいちゃうよ」

俺はキーケースから飛び出している鍵を、エントランスの防犯システムにかざした

自動ドアが静かに開くと、俺はスイレンの冷たい手を握ってアパートの中に入った

スイレンの細い指が、俺の手を握り返してくれる

指先を折り曲げるだけの行為なのに、俺は心の奥がすごく温かくなった気がした

やっぱ、俺…スイレンが好きだ

すげえ、好きだ

このまま、帰したくないよ
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