Call My Name
電車に乗って、俺は約9カ月ぶりに高校の前に立った

今も変わらない風景に、懐かしさを覚える

楽しかったとは決して言えない高校生活だったけど、悪い思い出ばかり…というわけでもない

この場所では、結局俺は『立宮弟』でしかなかったけどな

俺は苦笑してから、高校の門を潜った

職員室に向かう途中、「景」と呼ばれた気がして振り返ると、スイレンとナデシコ…目を腫らしているツバキが下駄箱で会った

俺はふっと微笑むと、肩を持ち上げた

ツバキがくいっと顔をあげると、目を真っ赤にして俺を睨む

お前のせいだ…と言わんばかりの顔をしていた

「兄貴に用事があって」

俺の言葉に、ツバキの肩が大きく震える

その肩をナデシコをそっと抱きしめていた

「立宮先生に?」

「ああ。家で話すより、こっちのほうが話しやすいと思って」

スイレンが、不思議そうに首を傾げた

ツバキと兄貴が別れた…その理由まではツバキから聞いていないのかもしれないな

いや…ツバキ自身も、兄貴から聞いていないのかもしれない

俺は唇を噛みしめてから、三人に笑顔を見せた

「家で、いろいろあってな。大丈夫だ…絶対に。兄貴はツバキを選ぶから」

俺は、それだけ言うと歩き出した

「弟っ! 立宮が戻ってきたら…今度はお前が苦しむんじゃないのか?」

ツバキが声を震わせながら、俺の背中に言葉をかけてきた

俺は足を止めずに、振り返らずに片手をあげた

気にすんなよ

俺は家を継ぐって、決めて生きてきたんだから

兄貴とは違うよ
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