Call My Name
「あ…す、すみませんっ。あたし…」

俺の腕の中にいる女が、頭を深く落として謝ってきた

俺は、女のリボンを見て、一年生だとわかった

一年がどうして、三年の教室が並ぶ廊下にいるのだろうか?

俺は不思議に思いながら、頭を下げっぱなしの女のツムジをじっと見つめた

「あんた、怪我なかったか?」

「は、はい。あたしは平気です。あ、でもあの…ぶつかったのはあたしで。すみません」

「俺は平気。あんた、危なかったな。もう少しで、大怪我だったぜ」

よく謝る子だなあ

そんなに謝る必要なんてねえのに…それとも俺が『立宮』だって知ってて、怯えているのか?

俺は怖くねえっつうの

「す…すみません」

「だから謝るなって」

俺は思わず苦笑してしまう

こんなに謝られても、困るっつうの

「立宮、忘れモン!」

俺の教室から顔を出したクラスメートが、俺目がけて筆箱を投げてきた

「あ、サンキュ! これがないと、マジ兄貴に怒られる」

俺はコントール抜群に投げたクラスメートに、少し大きめな声で礼を言った

「え? やっぱり英語の先生の?」

「は?」

もしかしてこの子…俺を『立宮 景』だと知らないのか?

なのに、よく謝って…

どうしてそんなに謝る?

どうして他人の顔色をうかがうような目で、見てくるのだろうか
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