Call My Name
一年の教室まで来て、やっと女子の背中を捉えた

「…けど、無理みたい」

女子が深いため息をつくと、教室が並ぶ廊下で立ち止まった

「ちょ…待て! あんた…てか、名前がわからねえから、呼びとめることもできねえじゃねえかよ」

俺は息を切らしながら追いつくと、女子の肩に手をおいた

「あんた、意外と走るの早えよ…て、名前! あんたの名前は?」

俺は呼吸を整えながら、言葉を吐き出した

名前さえわかってれば、遠くでも呼びとめられたのに…

「あ、えっと…瑞那(ミズナ)です」

「瑞那が傷つく顔をすることはねえんだよ。あいつらが悪いんだ。瑞那は笑ってろ」

そうだ…瑞那が悪いわけじゃない

想いを無視して、金を奪う奴らがいけいなんだよ

瑞那はただ、友人を大切にしただけなんだろ?

「え?」

あたしは首を横に倒した

「あ、それと…英語教師の立宮ってヤツは俺の兄貴だよ」

「はあ…」

俺はニヤッと口を緩めて、ひとさし指で瑞那の鼻をツンと押した

「瑞那が質問しただろ? その答えだよ」

「はい。ありがとうございます」

瑞那がお辞儀をした

礼儀正しい子だな

「んだよ…急によそよそしくなってさ。タメ語でいいよ。俺、瑞那を気に入ったから…ってやべっ。兄貴の補習に遅れるっ。じゃあな」

俺は右手を上げると、階段をまた駆けあがった

決めた…俺、あの子にする

あの子と恋愛するよ

それなら誰にも、文句言われねえだろ?
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