Call My Name
短い髪を軽くワックスで後ろに流して、スーツを着る

ピアスを取り、飾り気のない格好で事務の仕事をする

ふと鏡を見れば、教師の仕事をしている兄貴が立ってるんじゃないかと一瞬、自分の姿にびびる

俺と兄貴…兄弟なんだなって改めて思う

兄貴はデキがいいし、俺は劣等生だったから…もしかして俺は、両親の子ではないのかも? とかって、思っていた時期もあったなあ

だけど、鏡を見ればわかる

間違いなく俺は、父親の遺伝子を引き継ぎ、兄貴とは兄弟なんだって

こんなに似ていて、兄弟じゃねえってのか、あやしいだろ

「立宮君、これ…午後一の会議で使うの。コピー20部、お願いね」

長い髪を耳にかけながら、俺のデスクに同じフロアの女性職員が、クリアファイルに入ってる書類を置いてきた

「わかりました。すぐに…」

俺が席を立とうとすると、女性職員が俺の手を握ってきた

「今夜、暇?」

「ああ…予定入ってます」

俺はにこっと笑うと、クリアファイルを手に持ってコピー機に向かった

『また駄目だったの?』
『彼女、いるのかもよ?』
『ええー。だって飲み会で、いないって言ってたよ?』
『いつも仕事の後は、すぐに帰っちゃうじゃん。彼女がいるんだよぉ』

女性たちの声が、俺の背中から聞こえてくる

いねえーし

仕事後にすぐに帰るのは、『執事喫茶』のバイトが控えているからだ

こんなくそ真面目な格好で行ったら……怒られるからな

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