妹A ~5人兄弟+1~
「ありがとな」



優はてんとう虫をそっとクローバーの中に置いてやった。





「ありがとう…」



クローバーを見つめたまま、優が静かに言った。




つかさはそれがどういう意味かすぐに分かった。



幸せな時間はもう終わろうとしている。



実際には短い時間だったとしても、今の2人には永遠を感じた時間だった。



同じ時間を重ねられた事が奇跡。



「…ありがとう」



つかさは口びるを噛んだ。



お互い、『さよなら』は言わない。



言えない。



次に会う時は兄と妹…



もう手は繋げない。



切ない想いが溢れて息さえ苦しい。



つかさは優の背中をもう一度見つめ、口びるだけ動かした。



『好き…』



ゆっくり振り返り、踏みしめるように土手を上って行く。



滲んだ優の目に、またひとつ四ツ葉のクローバーが映っていた。

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