マジック・エンジェルほたる
 学校は、期末テストの前日をむかえていた。
 蛍はニヤニヤと笑いながら、それでいて少し困った顔で、机に腰かけて、向かいあっている由香に、顔を真っ赤にして興奮して、それで抑圧のある声で、
「もおっ。なんでテストなんてもんが、この世の中に存在する訳?なにが期末テストよっ…そんなものどっかへ飛んでっちゃえ!ってなもんっしょ!」
 と、オーバーなジェスチャーで蛍はいった。さすがに「お馬鹿さん」である。話しに品がない。
「本当よねっ。テストで人間のなにがわかるっていうの?!お勉強なんて出来なくたって、成功したひとはいっぱいいるじゃないの!」
 由香は少し声を荒げて、少し早口で言った。そして続けて「例えば、エジソンとかアインシュタインとか…それから…それから…えーと、…エジソンとか……エジソンとか…」 声がしぼんだ。その瞬間、由香は心臓に杭を打たれたような感覚に襲われ、言葉を呑んだ。
 知性のない由香にとってはご立派な言葉ではある。確かに、エジソンもアインシュタインも勉強は出来なかった。エジソンが幼少のときに「出来が悪い」ので学校を追い出されたのは有名な話しだ。しかし、天才とはそこからが違う。ちゃんと努力をしたのである。「発明とは一%の霊感と99%の努力である」
 エジソンの有名な言葉だ。天才の彼でさえ、努力を続けたのである。そういった意味でいえば、努力もしないで「将来はお金持ちになりたい」などという輩は、ただの怠惰であり、限りなくアグリーなのである。
「もぉ、いっそのことさぁ…」
 蛍は小悪魔のような可愛らしい微笑みを浮かべた。そして「やっぱさぁ…」と小声でいった。なにか火照ってくるような感情の高鳴りに、心臓の鼓動を早めた。
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