マジック・エンジェルほたる
「マジックエンジェルって、何っ?」
蛍は元気いっぱいに明るくきいた。この少女はほとんど人の話をきかない。いや、それを理解するだけのメンタリティがないのだ。コギャルだかマゴギャルだとかみたいなのと同じだ。つまり、頭が悪いのだ。しかし、どうでもいいことだけは耳にする。そして、たまに傷ついたりもする。極めてナーバスなのだ。
おかしな話だ。この青沢蛍という少女のどこにも「恋の悩み」だとか「生きていく苦悩」だとか「死への恐怖」「心の葛藤」といった心理が感じられないのに…。
セーラは少し戸惑って、目を丸くした。あまりのことに動悸を覚え、手足が震えた。
「あ、あのねぇ。…そういえば!まだ、あなたの「お名前」をきいてなかったわよねぇ?」「私のお名前?!私は蛍(ほたる)!青沢(あおざわ)蛍よ。齢は十六才、キャピキャピの高校一年生で、趣味は少女マンガとアニメをみることかなぁ」
蛍は嬉しそうに愛らしい微笑みを浮かべながら「それとただいまボーイフレンド募集中なのよっ!ケビン・コスナーみたいな。…そうだ!…妖精さん…あなたのお名前は?!」
「え?別にいいでしょう、そんなの」
「いいじゃんよ、別に…」
セーラは「うーん。わかったわ。私は、セーラよ」と言った。
「セーラ?なんかきいたことあるわねぇ。えーと、アニメかなにかで…」
「別にそんなマニアックなこといわなくてもいいわよ」
セーラは冷静にいった。
「え?え?マニ…ニ…マニ…って何?」
「マニアック!専門的な、とか、趣味的な…とかいう意味の英語ね」
「へぇーっ、セーラってば妖精のくせに、そんな難しい英語しってるんだあっ」
「…別に難しくなんてないわね」
「でもさぁ、私なんかさぁ。ハロー(こんにちは)、サンキュー(ありがとう)、グッバイ(さよなら)、ギブ・ミー・チョコレート(チョコレートください)、とかしか知らないもの」
「そ…それは、あなたが「お馬鹿さん」だからじゃないの…?」
「ヘヘヘ…っ。そうかなぁ?」
「…そうね、多分」