トリゴニコス・ミソス
「美名ちゃん、オレにもその笑顔向けて欲しいな」

ヘルメスは、湿っぽくなりそうな雰囲気を嫌うように、美名におどけて見せた。

「ヘルメスさんって面白いですね。最初パン君のお父さんって聞いたときびっくりしたけど、やっぱり二人は親子なんだなって思いました」

「そりゃそうさ。それに、もう一人息子も増えたしな」

意味ありげな視線を太陽に送りながら、ヘルメスは美名と最後の別れを惜しんでいた。

「ヘルメスさん、本当にありがとうございました」

そういって美名はヘルメスと握手を交わして、イデアの元へと戻っていった。

太陽は、しばらくヘルメスの前で立ち尽くしていた。

ヘルメスには言いたいことが山ほどあったはずなのに、いざ目の前にすると何も言うことができなかった。

「太陽」

そんな太陽を見て、ヘルメスのほうから話しかけてきた。

「太陽、お前はもっと自由に生きていいと思うぞ。

もし何か悩むことがあったら、オレのことでも思い出せ。

夢の中にでも現れてやるよ。

なにせ、お前はオレの大事な息子だからな」

「ヘルメス……ありがとう」

太陽はそれしか口にすることができなかった。

しかし、ヘルメスにはしっかりと太陽の思いは伝わっていた。

今度はヘルメスが太陽をイデアと美名の元へと送り返した。
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