トリゴニコス・ミソス
「それにしても、あれがイデアか……。あれじゃ、エオスじゃなくても手放したくなくなるだろうな」

そのヘルメスの言葉を受けてパンも同意を表す。

「だねー。あんな美少年だとはおいらも思わなかったよ。なあ、美名。イデアって昔からあんなだったんか?」

パンに聞かれて、美名はどこか遠いところでも見るような目になって話し始めた。

「うん。昔からイデア君は天使みたいに綺麗な子だったよ。しかも、とっても優しかったんだよ。

イデア君がいるだけで、周りがパッと明るくなってみんなが優しい気持ちになれたんだ。

昔ね、イデア君と捨て犬を見つけたことがあるの」

「捨て犬? 俺は知らないぞ」

「うん。太陽はちょうどそのときいなくて、イデア君と私の二人だけだったから。

すごく辛そうな犬の鳴き声が聞こえてきて、その声をたどっていったら子犬が一匹捨てられているのを見つけたの。

一生懸命立ち上がろうとするんだけど、前脚を怪我しているみたいでうまく立つことができないの。

もう、私それを見ただけでかわいそうで泣きだしちゃったんだ」

「美名は昔から泣き虫だったからな」
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