トリゴニコス・ミソス
その洞窟は、とにかく暗かった。

外の光が届いているうちはまだ良かったが、次第に何も見えない真っ暗闇の世界へと入り込んで行った。

それでも、しばらくすると目が慣れてきて、ぼんやりとだが洞窟内の様子がわかるようになった。

太陽はヘルメスからもらった袋の中から手探りであるものを取り出して、口の中に入れた。

残りは袋の中に入れたまま、その袋を肩から担いでただひたすらこの暗い道を歩み続けた。


どのくらい歩いただろうか。

どこからともなく水が流れる音が聞こえてきた。

程なくすると、大きな暗い川へ出た。

そこには、一隻の今にも壊れそうな船と一人のみすぼらしい老人がいた。

老人は無言で手を差し出している。

「お前が欲しいものはこれだろう?」

そういって、太陽は口をあけた。その中には一枚の貨幣が入れられていた。

この老人は、冥界への渡し守カロン。

カロンに冥界へ送ってもらうためには、川を渡るための渡し賃を払わなくてはいけない。

しかし、ヘルメスが言うには決してそれを手渡してはいけないということだった。

だから、カロン自らに貨幣を取らせるために口の中に入れていたのだった。
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