【短編】俺と鬼畜でカワイイかまいたち
「さて、私を好きだと言ってくれた用務員のおじさん。あなたに為になるお話を一つ」
夕日の赤光を鈍く反射する、堺の鎌。
オッサンには堺の声を聞き取るまでの余裕はないだろう。
ていうか余裕なんてやらないし。
「元来『かまいたち』とは『構え太刀』から転じてその名がついたと呼ばれその頃、およそ鳥山石燕と同時代には雌雄一対の妖として知られていました」
俺の猛攻は次第にオッサンを防戦一方にしているが、マズい。
先の頭部への一撃と脇腹のダメージが思いの外、深刻で視界がだんだん霞んできた。
「雌雄一対と言うのは『刀身』と『鞘』を表していたのでしょうね。昔の方々は本当に豊かな発想をお持ちだったみたいですね」
フフフと堺は艶やかに笑ってみせるが、バカやろう。
人がせっかくチャンスを作ってるって言うのに何をヘラヘラと語ってやがるんだ。
オッサンはこれっぽっちも聞いてねぇよ。
不意に、視界から堺が消えた。
ついでにオッサンも。
それから刹那の浮遊感。
俺がぶっ倒れたと言う認識を得たのは体が地面とハグしてからだった。