冬がとける日
幼少期の私は非常に食い意地がはっており、
買って貰ったばかりの人形用の小さな小さなプラスチックのパンを飲み込んでしまった。
ちょうどマーブルチョコくらいの大きさのパンを美味しそうだと思い、好奇心から口に含み、そして期待に漏れず飲み込んだ。


焦った私は母に相談。
今思えば、昼寝から覚めたばかりだったのだろう。
母は心配するでもなく、
3歳になったばかりの娘に、

「ゆーちゃんはね、明日ママにおはようって言えなかったら死んじゃうんだよ。」

と言いはなった。

錠剤サイズのオモチャだから、翌日になれば排泄物と一緒にまたシャバに戻ってくるはずなのだが、
3歳の頭では理解出来るはずもなく、
夜寝るのが心底怖かった。

そして早起きするや否や、隣りで眠るは母をたたき起こし、

「おはよう、ねぇおはよう!!」
と、
復活の呪文を唱えた。


母は、安眠を妨げられ、尚且つ「おはよう」を連呼され、寝起きの悪さ倍増していた。

自分が言い出したくせに、覚えていないのである。


必死に復活の呪文を唱える娘に、
「うっさいなー!!」

と一括した。

唖然としたが、
一応「おはよう」は言えた。
しかし、証人がいない。
けれど私はやり遂げた。

この場合はどうなのだろう。
私は死ぬのか生きるのか?

最後の審判である母に一括され、
はっきりしなかった。

私の生死はあれから20年弱の年月が流れたが、未だに保留なのである。
私は、現在もこの一連の事件を忘れることが出来ない。

小さいオモチャを見る度に思い出すのだから、軽いPTSDである。

まぁもっとも、もうただの笑い話で、思い出す度に思いだし笑いをして周囲に怪しまれるという症状が見られるだけなのだか。

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