冬がとける日
小学6年生の冬休み。


「いってきます」
という言葉を残し、
父は会社近くの廃ビルから飛び降りた。

遺書はない。

ただ「いってきます」のみ。

現状から判断して、自殺だろうと警察官が事務的に言っていたのを覚えている。

父は、普段は気の弱いうだつの上がらない小さな企業のサラリーマンだが、
そのくせ酒癖が悪く、ギャンブルばかり。


酒を飲みながらグチグチ文句ばかり言って泣いている父が私の鮮明な思い出。



一緒に遊んだ思い出もないし、
あまり話した思い出もない。

だからかもしれない。

父がただのタンパク質の塊になってもあまり悲しくはなかった。

涙は出たが、それはお葬式の雰囲気に飲まれたから。
だったと思う。


親戚や学校の友達だけでなく、私の知らない人がひっきりなしに家に出入りしており、
そのあまりの目まぐるしさで私はただただ人に酔っていた。


そして事態が落ち着き、酔いが覚めたころ、
家には父がいなくなっていた。


文化祭のあとのような腑抜けた日常に私が寂しさを覚えなかったのは母のおかげ。
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