冬がとける日
「ですよね!!太宰はいいですよね!!
ぼく大好きなんですよ。」
和美は曖昧にうなずくくらいしか出来なかった。
数学の教科書の話はどうしたのだろう。
とゆうか、なんなのだろう。
和美の怪訝そうな顔と、自分が作ってしまった不思議な雰囲気を気にかけることもなく、美少年はまだ上機嫌に話を続ける。
和美との温度差といったらハワイと南極くらいあるに違いない。
「今日数学のテストなんですか?
ぼく結構数学得意なんで良かったらヤマかけましょうか。」
「いや、あの、はい。それはとても嬉しいんですが、太宰治がどうしたんですか?とゆうか、私太宰治が好きだなんてあなたに言いましたっけ?」
和美の手から勝手に取り上げた教科書をペラペラめくっていた美少年は、
やっと和美と自分との温度差に気付いたらしい。
美少年はうつむき和美の教科書を引き続きペラペラさせている。
どうやって質問に答えるのが適切なのか、
数学のテストではどこが出やすいのか、
はたまたこの紙製品のパルプはいったいどこ産なのか、
どれを考えているのかは、
和美には一見して分からない。
普段の和美なら教科書を取り上げて、
シカトを決め込むところかもしれないが、
いかんせん相手は美少年。
悲しいかな、女の大半は男を顔で判断する。
うつむいた横顔には長いまつ毛が作った影が出来ており、
色白な肌と相まってとても神秘的なオーラをはなっていた。