冬がとける日
そこで和美は、自分の記憶の糸が震えるのを感じた。
この美少年、見たことあるぞ。
写真で見たのか、街で見かけたのか、おとぎ話的に夢で見たのか、それとも歴史の教科書に載ってる偉人に似ているのか、
判然とはしないが、
確かに和美はその横顔を知っていた。
記憶を糸を手繰り寄せようとした時、
美少年は和美に振り替えり、
話始めた。
「あの、その、僕、いつもだいたいこのバスに乗るんですけれど、
それで太宰治の本を読んでるキミを見掛けて、友達になれたらいいなと思い、今日、話しかけたわけなんです。
まさか今日に限って数学の教科書を読んでるとは思いませんでしたけど…」
照れ臭そうに笑った。
その表情を見ると、まだあどけなく、彼もただの高校生なのだと感じる。