冬がとける日
正樹は私を助手席に押し込んで、
車を猛スピードで飛ばしだした。


「病院どこ?」


私はここから30分程度の、桜のきれいな病院を言った。


「待ってろ。今、ワープしてやる。」



正樹は、アクセルを踏み込んだ。
ボロボロの車は、けたたましい音を出す。

正樹が問いかける。

「親父さんに連絡しなくていいのか?」


「ああ、うん。
うち父親死んでるんだ。
もう10年になるのかな?
自殺してるの。」


正樹はチラッとこちらを見ただけで、

「そうか。」
とだけ言った。

正樹は猛スピードで飛ばしてくれたが、
私にはとてつもなく永く永く感じられた。


父の訃報を聞いたとき、別段何も感じなかった私。
もしかすると、冷たい人間なのかもしれないと、不安になったものだが、

それは全然違った。

今、母親の突然の連絡。


ただただ怖かった。

早く、早く。

本当にワープのように病院に到着したのだが、
私は降りるのもまた怖くなった。

もしももう会えなかったら・・・
涙が溢れた。


正樹は、
車を乱暴に止め、
泣いている私を引っ張って、ロビーに駆け込んだ。


「すみません、急患で運ばれた者の親族です。
名前は、葛城和美さん。今、どこですか?」



正樹は病室を聞き、私を引っ張り、駆け出した。



固く閉ざされたドア。

静かな病室。

早鐘を打つ鼓動。

お願い、間に合って。


「お、お母さん!!」
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