冬がとける日
母のいない部屋はガランとしていて、

私は自分がこの世で1人ぼっちになったように感じた。


父が死んだときも、
失恋したときも、
六股に気付いたときも、

こんなに悲しさを感じたりはしなかった。


私はとりあえず、母の入院用の荷物をまとめるのに、


着替えもせず、
母の部屋へ向かった。


母の部屋に入るのは久しぶりだった。


母には毎日会うし、毎日会話もするが、お互いの部屋にはあまり入らなかった。

お互いのプライベートを大切にしていたというわけじゃないが、
なんとなく近寄りがたかったのだ。


階段の突き当たりが母の部屋。


ドアには色褪せた太宰治の切り抜きが張ってある。


以前、この切り抜きの質問をしたことがあったが、

母は名前の由来同様、教えてはくれなかった。


破けたところをテープで補強した切り抜き。


その切り抜きの先には、

母の部屋がある。


私はゆっくりとノブを回した。
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