冬がとける日
久々の母の部屋は、夕焼けの中、主を失い寂しそうだった。



シングルベッドとドレッサー、それと小説がぎっちり詰まった本棚。



太宰治の小説が発行順に綺麗に並んでいる。



「津軽」だけが二冊ある。


母は太宰治の「津軽」が好きだった。

時間があると、いつも適当なページを開いて読んでいた。


そして、

「お母さんね、津軽に行くのが夢なのよ。」


そうだ、旅行先は津軽にしよう。

太宰治が愛し、母が憧れる津軽に二人で行こう。



私はその中から数冊選び、入院用のボストンバックの中に入れた。



クローゼットを開け、パジャマや服を適当に見繕っていく。


上の方にある、シャツを引っ張った時、



ガシャンと何かが落ちてきた。
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