冬がとける日
適当にページを開く。


若い頃の母の字で一言程度の短い日記が綴られていた。


「今日、バスの中で会った一高生が井坂の後輩だった。
しかも近隣の高校生のアイドルらしい。
私はモグリなのか。

偶然にびっくり。
明日も会えるといい。」


何故かもぐらの挿絵が添えられている。

またページをめくる。



「今日、雄一くんと井坂と早苗で水族館へ。
雄一くんが魚に関しても博識で驚いた。
やっぱり一高生は頭がいい。」



「夏休みの計画を四人で立てる毎日。
旅行にでも行けたらいいけど、お母さんが許すわけがない。
早くバスに乗りたい。」



それは母の高校時代の日記だった。


この井坂と書かれた人物には一度会ったことがある。


父の葬式で、母と私を慰めてくれたおじさんのことだろう。



綺麗な奥さんをつれていたのを覚えている。


早苗と言う友人も、雄一くんと書かれた人も葬式に来ていたのだろうか。


そしてその文章から、

母が雄一くんを好きだったということが伝わってくる。


ふと目をあげる。


そこに広がる母の部屋は、私の知る母の部屋ではなく、

知らない1人の女の部屋の用な錯覚に陥った。


私の知らない母が日記から飛び出し、部屋を占領していた。
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