冬がとける日
「そっか、ならよかった。
今度はうちにも来いよ。うち親父たちも和美を紹介したい。」


雄一と和美は幸せだった。


この上もなく幸せだった。


二人はまだ高校生だったが、結婚をする気でいたし、それが当たり前だと思っていた。



「てかさ、雄ちゃんいつもいつも太宰読んでて、もう読むものないんじゃない?
あたしはもう読破しちゃったよ。」


和美は雄一の小説を指差した。


「ああ、これ?」

雄一は「津軽」をペラペラとやる。


「前に、最初にここで話した時、和美が津軽に行ってみたいって言っていただろう。
だからこれを一語一句暗記して、旅行に行くときの参考にしようと思って。いつか二人で行こう。」


和美は嬉しくなった。

幸せとはこういう毎日なのだと実感する。


まだ見ぬ津軽の町中を、太宰治が暮らした町中を、雄一と二人歩く姿が目に浮かぶ。

それは若い姿でもあり、
年老いた姿でもあった。


雄一との将来を夢見る。

「そうだね。絶対行こうね。」
< 63 / 79 >

この作品をシェア

pagetop