冬がとける日
「えー、誰から聞いたって?井坂に聞いたんだよ〜。」

早苗はそう言った。


私はびっくりして受話器を落としそうになる。


早苗は話を続けた。
「いやね、実は今日の電話、和美におめでとうを伝えたくてかけたわけじゃないの。
本当におめでとうとは思っているんだけど、
本題はそれじゃないの。」

早苗の声が少し暗くなるのが分かる。


「実はさ、少し前に私、井坂にフラレたの。夏休みの前日、なんとなく気まずくて別れちゃったじゃない?
夏休みも全然会わないし。
それで私、井坂とね偶然会ったのよ。で、勢いで、告白しちゃったの。
そしたらフラれて。案の定なんだけどね。
あたしは井坂が好きだったけど、井坂はもしかすると和美が好きなのかな?って思ってたし。
だから井坂に聞いたの。

和美が好きなの?って。

そしたら、
井坂、和美は雄一と付き合ってるから全然違うって。
和美のことも私のことも彼女とか、そうゆう対象には見てないんだって。

だから、なんか和美にも申し訳なくて、おめでとうも言いたかったし。」



早苗はそこで言葉を切った。


早苗が井坂を好きだったことにも驚いたが、井坂の対応にも驚いた。


早苗を思ってなのかわからないが、
井坂のことを傷つけたのは事実だった。

やっぱり直接言おう。


井坂、ごめん。
けど、ありがとう。


「いやねぇ、なんとなくこんな感じに…。それよかあたしの気持ちダダ漏れだったかなぁ?
私、自分を隠せるタイプなんだけどなー。
てか、早苗のことも初耳だよ!!うん、井坂があたしを好きなわけもないし、
早苗にはもっとずっといい男がいるよ。」


我ながら嫌な女だと思う。


いろんなことに驚いて、なんて言うのがベストなのか分からない。
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