冬がとける日
呼び出し音が長く感じる。

たった10秒程度の待ち時間。
私には何時間にも感じられた。
しばらくして、

「はい。井坂です。」


井坂の低い声がした。


「あ、白須です。えっと井坂?」


「ああ、なんだ和美か。急にどうした?」


井坂の明るい声にホッとする。


「あのね、今、早苗から電話もらって。
井坂には自分から直接言わなくちゃならないと思ってたんだけど、
なんだかこんな形になっちゃってごめん。
私…」


「はい、やめやめ。」

井坂はそこで話を切った。


「いいよ。大丈夫。オレはフラれるの覚悟だったんだから。
お前が雄一を好きなのはなんとなく分かってたし、
返って困らせることして悪かった。
最後に往生際悪いことしたな、オレ。」

井坂は笑って、そう言った。


私は何も言えない。


「謝ったりしないでくれ。
オレが和美を好きなのは昔も今も同じだし、
きっとこれから先も同じだよ。
けど、和美に謝られると、なんだかそれを否定されてる気がしてな。
オレはお前が雄一と幸せならそれでいい。
ただ辛くなったり、いやになったらオレに言えよ?
いつだって相談にのるし。
だから、いつまでも友達でいよう。
それと、早苗のことは、仕方ないと思ってくれ。あいつにも悪いことした。」


井坂は淡々と語り続けた。


和美は井坂との未来を夢見たこともなかったけれど、
きっとこいつと結婚する人は幸せになれるだろうと感じた。


井坂がモテるのはそのルックスだけでなく、
こうした性格からもあるのだろう。


「うん。そっか。じゃぁいつまでも友達でいてね。」


そうとしか言えなかった。


誰から聞いたかも聞けなかった。


和美はそのまま受話器を置いた。
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