冬がとける日

「あの隣り良いですか?」


和美は読んでいた本から顔を上げ、
声のした方を見上げる。


そこには、綺麗な顔の男の子が立っていた。


農家ばかりが軒を連ねる田舎街から、高校のある市街地まで出られるバスは、朝の時間はこれ一本だった。


しかし、利用客は少なく高校生とおぼしき男女が数人乗っているだけ。


客のいないシート和美の位置からも、たくさん見える。


他の席も空いているんだけど…

と、
思いながら和美は、二人掛けの席の空いているスペースに置いていたカバンを抱える。


「どうぞ…」


「ありがとう。」
少年と呼ぶには清閑で、青年と呼ぶにはあどけない彼は、
和美の隣りに座るとカバンの中から本を取り出して読み始めた。


和美は、自分も本を読むふりをして、脇目で彼をそっと見る。


綺麗な顔をした、男の子。

詰襟のボタンから判断するに、一高の生徒だった。

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