[妖短]夢幻寺

さぁ、さぁ、

夕闇が迫り、むくむくと雲が湧いたと思った途端、数刻も経たない内に酷く降り出したもので、

長旅に疲れ切った躰にはあまり好ましくなかった。

じわ、じわと喧しく鳴いていた蝉の声はいつの間にか止んでおり、まとわりつくような雨の音しかしない。

草履は濡れ、その上暑さにすっかり蒸れて、

一歩を進む度に、足がぶよぶよのはんぺんか何かになってしまったような、妙な不快を感じる。

そもそも、湿気多過の夏場に雨なぞ降るのが悪いのだ。

じめじめしてかなわねぇ。

愚痴をこぼしながら、咲重郎(さじゅうろう)は、

既に棒きれのようになった足を、それでもずるずると動かして歩いていた。
< 2 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop