[妖短]夢幻寺
ニ
さぁ、さぁ、
夕闇が迫り、むくむくと雲が湧いたと思った途端、数刻も経たない内に酷く降り出したもので、
長旅に疲れ切った躰にはあまり好ましくなかった。
じわ、じわと喧しく鳴いていた蝉の声はいつの間にか止んでおり、まとわりつくような雨の音しかしない。
草履は濡れ、その上暑さにすっかり蒸れて、
一歩を進む度に、足がぶよぶよのはんぺんか何かになってしまったような、妙な不快を感じる。
そもそも、湿気多過の夏場に雨なぞ降るのが悪いのだ。
じめじめしてかなわねぇ。
愚痴をこぼしながら、咲重郎(さじゅうろう)は、
既に棒きれのようになった足を、それでもずるずると動かして歩いていた。
夕闇が迫り、むくむくと雲が湧いたと思った途端、数刻も経たない内に酷く降り出したもので、
長旅に疲れ切った躰にはあまり好ましくなかった。
じわ、じわと喧しく鳴いていた蝉の声はいつの間にか止んでおり、まとわりつくような雨の音しかしない。
草履は濡れ、その上暑さにすっかり蒸れて、
一歩を進む度に、足がぶよぶよのはんぺんか何かになってしまったような、妙な不快を感じる。
そもそも、湿気多過の夏場に雨なぞ降るのが悪いのだ。
じめじめしてかなわねぇ。
愚痴をこぼしながら、咲重郎(さじゅうろう)は、
既に棒きれのようになった足を、それでもずるずると動かして歩いていた。