美しき自由俳句の世界
 私と母は、「年を取ったのだろう」と言い合っていた。四十代の頃は毎日飲んで帰って来ても、翌朝には誰よりも早く起きて出かけていっていた。それが今では毎日七時には帰ってくるのに、食事を終え九時を過ぎる頃にはもう舟を漕ぎ始めている。母が「布団を敷いたから」と声をかけても、寝ぼけながら「まだ起きてる」などと返事をしそのまま眠りつづける。冬はコタツを、夏はクーラーをつけっぱなしにしているので母も気が気ではない。しかしそのわりには自分で声をかけるのはせいぜい一度か二度で、あとは私に「起こしてきて」などと言い、早々に二階の自室にこもってしまう。放っておいたら何時まであそこで寝ているのか知りたくなり、一度声をかけずにおいたら、深夜三時頃になってようやくもそもそと寝室へ引き上げていく音がしていた。

 あまりに疲れている様子のときは、座椅子をまったく倒さず(というか倒す間もなく)、姿勢をまっすぐにしたまま寝ていることもあった。首や背中に負担がかかっているのか、ときおり苦しそうに顔を歪めていた。そんな父の顔を見ながら、そんなに疲れているならなぜ一刻も早く布団で寝ないのだろうと不思議で仕方なかった。私も将来結婚し家庭ができ、用無しになるまで働いた頃に、やはり夫を同じような目で見るようになるのかと思うと少し切なくなった。
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