先生なんて大嫌い
ジャン=バティストの憂鬱

 面倒くさい。私は素直にそう思った。高校1年生は文系や理系に別れないから。科学という最低最悪の授業を受けないといけないから。窓際の後ろから2番目の席。其処に座りながらも考えてしまうほどに憂鬱な教科。
 「凜、次の授業何ー?」
 あの忌々しい科学が終わった休み時間に隣の席の愛歌が聞いてきた。私は黒板の隣の掲示板に貼り付けられた時間割り表に、思わず不満の声が洩れる。
 「…現代文。」
 「やったじゃん、ダーリンのお出ましだよーっ。」
 眉をこれ程までに無いくらいまでにしかめながら答えてあげたのに、相変わらず馬鹿げた返事をする愛歌。彼女の言うダーリンとは担任であり、現代文と古文を受け持つ教師の出海。年齢不詳。容姿的には若いけど、あの空気は新任じゃない。絶対に。何時何処で誰が誰のダーリンになったのか説明して欲しい。ダーリンって何だ、ダーリンって。
 そんな皮肉めいたことを考えながら愛歌につられて漢字ノートを捲る。毎週月曜日のこの時間は漢字の小テスト。ページには赤色のチェックが並ぶ。何勉強してんのー。やり直し嫌だからね。そんなやり取りをするうちにチャイムが鳴って。ほら、彼奴は来ない。教師なんだから来いよ、嫌いな所の1つ。
 ガラッと扉の開く音で入ってきた彼奴は、悪びれもせずにへらへら笑っていて。隣で笑う愛歌そっくり。くるくると髪を指に巻いて遊びながらこっちを見てくる。
 「よし、勉強出来ただろ。テスト始めるぞ。」
 教室の彼方此方からえー、と批難の声。でもそれは嫌がる風じゃないそれ。皆騙されてるんだ。プリントが配られて一斉にペンが動き出す。勿論昨日の夜に勉強済み。スムーズに全部書けた。愛歌は悩んでるけど。ざまあみろ。それにしても眠い。昨日頑張って勉強したからかな。お昼過ぎの心地好い陽射しと昨日のことが思い出されて瞼は夢を見る。
 「余裕なのか?凜。」
 上から降る声にはっとして顔を上げる。其処にはテスト中恒例の見回る出海の姿が。笑いを堪える愛歌を横目に睨んで首を横に振ってやった。出海は、はははっと笑って口を動かした。他の誰にも分からないように声を出さず。
 其の唇は紛れもなく、「放課後、資料室。」と動いていた。
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