【短】俺の、友人
「勇人さん…痛いです」

松浦が目を開けると、にっこりと微笑んだ

起きたか、松浦…

俺は目頭が熱くなると、松浦の頬を強く抓った

「いたたっ…」

松浦が、痛みを訴えるのを聞いて、これは現実なのだと俺は理解する

「おせえんだよ」

「はい?」

「起きるのが…遅いんだよ」

「長い夢を見たんです。真央が…近くに居て、笑ってた」

「ああ?」

「でもその夢の中で、僕は真央を『さくら』と呼び間違えたんです。そしたら、真央がすごく悲しそうな顔をして、『帰ったほうがいい』って」

松浦が、天井をじっと見ながら一筋の涙をこぼした

「あれって、死の世界だったのかなあ」

「お前は死んでねえだろ」

「『今なら、まだ間に合うから』って真央が言ってた…って、廊下、煩くないですか?」

廊下から聞こえてくる女性のヒステリックな声に、松浦が少し驚いたような顔をした

「ここの院長の奥さんだとさ」

「はあ…怖い女性ですねえ」

松浦が苦笑している

『まだ間に合う』か

松浦が、『さくら』と呼び間違えなければ…こいつは、真央に連れて行かれていたのか?

松浦の魂が、天に召されたのだろうか

「昔は可愛かったらしいぞ」

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