Nameless M
1993年、田中は長年の研究から1つの魔法を実用化した。

合わせ鏡を利用した無限空間の構築だ。

永遠に続く世界を繋げ、1つの無限にする。

これが、実用化された最初の魔法『グラウンドゼロ』である。

この最初の成功を機に、田中は更なる魔法を完成させていった。

それこそ、お伽噺のように一瞬で服が変わる。

小説のように手から炎を出す。

神話のように、伝説のように、空想のように――。

田中が7年かけて産み出した魔法は全部で65536種あった。

そしてその65536種の魔法全てが致命的な欠陥を抱え、田中を絶望させる。

Q.欠陥とは?

A.現実では使用できない。

田中はグラウンドゼロの発明と同時に、研究の場をそこに移した。

それは魔法が下手に成功した場合の周囲への配慮だったのだが、これが完全に裏目に出る。

なぜなら、その後の魔法実験の成功は全てグラウンドゼロにて行われたということだから。

グラウンドゼロ以外に通常空間では魔法は1つも発動しなかった。

魔法はお伽噺のまま。

そして田中はグラウンドゼロの特性をようやく理解したのだ。

グラウンドゼロと通常空間の間にはあらゆる因果が存在しない。

グラウンドゼロで起こったことはグラウンドゼロだけで起こり、通常空間で起こったことは通常空間だけで起こる。

これが、現実だった。

父の遺志を継ぎ、魔法を実現しようとした田中にとって、自分の研究が役に立たないと知ったとき、その絶望は彼の命を奪い去るに十分なものだった。
< 4 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop