ラバーズキス
「出先からの直帰だから今日は終わり。サボってねーよ」
そう言われると、アツシはネクタイこそはしていないけどシャツと黒のパンツで、初めて会った時とは全然違う服装だった。
「あんまり見るなよ。嫌なんだよ、スーツ」
アツシは運転しながら左手であたしの目を覆った。
「なんで嫌なの?似合ってるのに」
あたしはアツシの手をよけながら言った。
「似合う?」
「うん」
一瞬アツシが照れくさそうな顔をして、ふいっと反対側を向いてしまった。
「あ、和希くんだ」
エミナが窓を開けて手を振る。アツシの車はお店の駐車場へ入った。
和希の大学の先輩がしているお店で、小さいながらも席はいっぱいだった。
「奥の個室開けてるから、そこ使って」
和希の先輩が和希にメニューを渡しながら言った。和希について大哉とエミナの後ろをついて行く。
「お前、変わったな」
後ろからアツシが言った。「え?あたし?」
「そう」
「どこが変わった?」
立ち止まってあたしはアツシに聞いた。漠然としたアツシの言葉に少し緊張していた。良い意味なのか悪い意味なのか、外見なのか内面なのか…。



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