ラバーズキス
その頃からアツシはよく酔って電話をかけてくるようになった。前は仕事が忙しくても明るい声をきかせてくれていたのに、最近ではひどく疲れた声で、笑うことも少なくなった。
そして
「俺のこと、忘れるなよ」と言う。
「毎日電話してるのに…」とあたしが笑うと
「俺は一生忘れないから」と言う。そして、
「お前が誰と結婚しても、どこに行っても、俺は一生忘れない」
と。


ある日、いつものようにアツシと電話で話していると、
「一生、俺の側にいてくれるか?」
とアツシが言った。
19歳のあたしには“一生”なんて考えられるわけもないし、“一生”っていう言葉に照れてしまい、
「なに言ってんの?!酔ってる?」
と茶化した。
「ん、飲みすぎたかな」
とアツシも笑った。

アツシは、とても寂しがり屋で、誰かと離れていくことをとても辛く受け止めていた。それは、彼の両親が離婚していて、兄姉と離れてしまっていることも関係あるのかも知れなかった。そして、いつも一緒に過ごし、アツシの一番の理解者だった和希が、あたし達の関係をよく思っていないことも、アツシが疲れている原因なのかもしれなかった。



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