ラバーズキス
2人で並んで駅まで歩くことになった。エンジンをかけていない400のバイクをアツシは黙って押していた。
「ごめんな」
あたしが言おうとした言葉をアツシが口にしたので驚いた。
「乗せれなくて」
「こっちこそ、送ってもらってごめんね。バイク、重くない?」
あたしは乗せれない理由には触れずにアツシに言った。
「これぐらい、なんでもねえよ」
アツシは続けた。
「付き合ってた女と別れてさ。そいつがバイクに乗るのが好きだったから、誰も乗せる気にならないんだ」
あたしはまっすぐ前を見たまま話すアツシの横顔を眺めていた。気の強そうに上がり気味の眉と優しそうな目。男らしく骨張った顔。眺めていたというよりも、見とれていた。
「…どうして別れたの?」
ぼんやりと見とれていたら、頭に浮かんだ疑問が口から漏れた。
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