[短]花びらが落ちる瞬間
 
そっと目を閉じれば、鮮やかに蘇らせるいつかの2人。


優しい笑顔が好きだった。

真剣な姿が好きだった。

照れた顔も困った顔も。

明るい声が好きだった。

私を呼ぶ声が愛しかった。

握られた温かい手を離したくなかった。


…だから。


聞きたくなかった…。


もし…。

泣いて縋っていたら…。

もがいてその手を離さないでいたら…。

別れたくないって言っていたら…。


何かが変わっていた?


手を伸ばせば届く距離に、いてくれた?


…本気の“恋”だった?

その手の温もりは、確かにそこにあったよね?

あなたの心に私はちゃんといた?



今だって…こんなに胸が締め付けられるのは。


このピンク色の花びらが落ちる瞬間、いつも一緒にいたから…。


戻れないのはわかっているから…。


…ここを独りで歩きたくなかった。


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