[短]花びらが落ちる瞬間
 
『…今日部活ないからさ…その…い、一緒に帰らない…?』

茹でダコ状態の伸ちゃん。

『う、うん…』

酷く緊張する胸の音。

隣を歩く伸ちゃんに聞こえる訳がないのに、聞こえやしないかと。

激しさを増すばかり。


近いはずの距離は遠く感じて。

2人の肩の間にある不自然な隙間がもどかしい。


『全部…散っちゃうんじゃないか?』

ボソッと届いた声に反応して見てみると。

風に吹かれて舞い散る桜の花びらを見上げていた。


『まだ…大丈夫だよ』

そう口元を緩めて、伸ちゃんに目線を合わせる。

『…何で?』

きょとんとあどけない顔をする伸ちゃん。

『まだ…咲いてない蕾があるよ』

私が木の枝の小さな芽に指を差すと、目で追いかける伸ちゃん。

『あ…ほんとだ』

『ね?』

ニッコリ笑う私の下ろした手の平に、ほわっした温もりが包み込む。


ドキドキと疼く胸。



初めて手を繋いだあの日…。


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